少量限定車ならすべての規制を無視できる、という意味でもありません。
ただ、商品規模や販売方法を変えることで、通常の量販グレードとは違う企画を成立させる余地はあります。
2026年のWRX STI Sport♯を見ると、その「別の作り方」をSUBARUとSTIが現実の商品として見せた、と考えることができます。
FA24型2.4Lターボでは次期WRX STIを作れないのか?
新型WRX STIを語るとき、もうひとつ欠かせないのがエンジンです。
歴代WRX STIを象徴してきたのは、2.0L水平対向4気筒ターボのEJ20型でした。
EJ20は1989年の初代レガシィから長年にわたってSUBARUの高性能車を支え、国内仕様では初代レガシィRSの220PSから、1990年代には280PSへ到達。
最終期のWRX STIでは308PS、STIコンプリートカーのS208やWRX STI TYPE RA-Rでは329PSまで高められました。
約30年にわたって改良されてきたEJ20は、まさにSUBARUのスポーツエンジンを象徴する存在です。
そのEJ20に代わって現行WRX S4に搭載されたのが、FA24型2.4L直噴ターボです。
日本仕様の現行WRX S4は2021年11月に登場し、最高出力275PSを発生します。
先代WRX S4のFA20型2.0Lターボは最高出力300PSだったため、数字だけを見ると「排気量が増えたのにパワーが減った」と感じる人もいるでしょう。
でも、エンジンは最高出力だけでは性格を判断できません。
FA24は2.4Lの排気量を生かし、低い回転域からトルクを使いやすくする方向に重点を置いたエンジンです。
WRX S4では2,000rpm付近から太いトルクを使えるため、日常走行で毎回高回転まで引っ張らなくても速度を乗せやすいというメリットがあります。
ここは初心者の人にもイメージしてほしいところです。
昔の高回転型スポーツエンジンが「思い切りペダルを踏んで回転数を上げるほど盛り上がるタイプ」だとしたら、FA24はアクセルを踏んだ比較的早い段階からグッと前へ出てくれるタイプです。
6MTとの組み合わせでも、この低中回転域のトルクは大きな強みになります。
たとえば街中で3速から加速したいとき、毎回2速へ落としてエンジンを高回転まで回さなくても、ある程度そのまま押し出してくれる余裕を作りやすいからです。
一方、過去の自動車メディアではWRX S4開発関係者への取材として、現行FA24から大幅に最高出力を引き上げて量産市販車として成立させることの難しさが報じられてきました。
ただし、これはSUBARUが「FA24はこれ以上パワーアップできない」と公式に宣言した話とは分けて考えるべきです。
エンジン単体なら改造による高出力化は可能でも、量産車として耐久性、排出ガス、冷却性能、駆動系の余裕まで保証するとなれば条件が変わります。
ではFA24ではSTIを作れないのか。
2026年、その疑問に対してかなり興味深い答えが出ました。
WRX STI Sport♯とは?275PSと6MTが示した新しいSTI像
2026年4月9日、SUBARUとスバルテクニカインターナショナル(STI)は「WRX STI Sport♯」を正式発表しました。
販売台数は600台限定です。
2026年4月9日から5月17日まで、全国のSUBARU販売店で抽選申し込みを受け付ける方式が採られました。
最大の注目ポイントは、現行世代の日本仕様WRXとして初めて6速マニュアルトランスミッションを採用したことです。
搭載エンジンはFA24型水平対向4気筒2.4L直噴ターボ。
最高出力は202kW(275PS)/5,600rpm、最大トルクは350N・m(35.7kgf・m)/2,000〜5,200rpmです。
駆動方式はもちろん、SUBARUらしいシンメトリカルAWDです。
ここで驚くのが、最高出力が275PSのままという点でしょう。
歴代WRX STIや現在のライバルスポーツモデルを知っている人なら、「STIなのにもっと上げないの?」と思うはずです。
しかし、WRX STI Sport♯を詳しく見ると、今回の狙いが単純な最高出力競争ではないことが分かります。
エンジンでは、ピストンとコンロッドの重量公差を通常より小さく管理。
さらにクランクシャフト、フライホイール、クラッチカバーといった回転部品についてもバランスを厳しく選別した、バランスドエンジンやバランスドクラッチカバー&フライホイールが採用されています。
これは何をしているのか。
分かりやすく言えば、同じ部品でも製造時にはごく小さな重量差があります。
そのばらつきをさらに小さくそろえて組み合わせれば、エンジン内部やクラッチ周辺の回転が整いやすくなり、無駄な振動を抑えながら滑らかなフィーリングを狙えます。
馬力計の数字を増やす改良ではありません。
でも、運転席でアクセルを踏み、クラッチをつなぎ、シフトアップするたびに触れる部分だからこそ、運転の気持ちよさに直結しやすい改良なんです。
足回りには専用チューニングのZF製電子制御ダンパーを採用。
ブレーキにはbrembo製のフロント対向6ポット、リア対向2ポットキャリパーとドリルドディスクローターが組み合わされ、タイヤは245/35R19サイズのブリヂストンPOTENZA S007です。
さらにSTI製フレキシブルドロータワーバーや前後フレキシブルドロースティフナーなども採用されています。
新型WRX STIは「永久に開発中止」ではありません。2022年に現行WRXベースのICE版次世代STIが見送られた一方、2026年には6MTの「WRX STI Sport♯」が登場しました。
「新型WRX STIはもう出ないの?」「開発中止という話は本当?」と調べている人に、まず一番大切な点からお伝えします。
2022年3月11日にSUBARU of Americaが示したのは、現行WRXのプラットフォームをベースにした内燃機関、つまりICE搭載の次世代WRX STIを生産しないという方針です。
WRX STIという存在そのものを永久に終了すると発表したわけではありません。
そして状況を大きく変えたのが2026年です。SUBARUとSTIは、現行WRXをベースにFA24型2.4Lターボ、シンメトリカルAWD、6速MTを組み合わせた600台限定車「WRX STI Sport♯」を商品化しました。
つまり2026年現在の答えは、「従来と同じ形の量産WRX STIはいったん途切れたが、STIらしい高性能WRXを作る取り組みまで終わったわけではない」です。
この記事では、2022年の公式発表で何が示されたのか、燃費・排出ガス規制がなぜ高性能AWD車に厳しいのか、FA24型エンジンとWRX STI Sport♯から何が読み取れるのかを、一次情報で確認できる事実、第三者による分析、筆者の考察を分けながら整理します。
新型WRX STIは本当に開発中止?2022年の公式発表を整理
「新型WRX STIが開発中止になった」という表現は、半分正しく、半分は注意が必要です。
転機となったのは2022年3月11日。米国でSUBARU車を展開するSUBARU of Americaが、次世代WRX STIについて公式に方針を明らかにしました。
そこで示されたのは、当時登場した新世代WRXのプラットフォームをベースとして、内燃機関を搭載する次世代WRX STIを生産しないという内容です。
一方で、SUBARUは次世代STIについて、電動化を含めた可能性を検討していく考えも示しています。
ここは検索すると混同しやすいので、時系列で整理しておきましょう。
| 時期 | WRX STIをめぐる主な動き |
|---|---|
| 2019年 | 先代WRX STIの国内販売終了へ |
| 2021年11月 | 現行WRX S4が日本で登場 |
| 2022年3月11日 | SUBARU of Americaが現行WRXベースのICE版次世代WRX STIを生産しない方針を発表 |
| 2022年 | 電動化を含む次世代STIの可能性が注目される |
| 2026年1月9日 | WRX STI Sport♯を公開 |
| 2026年4月9日 | WRX STI Sport♯を600台限定車として正式発表 |
大切なのは、2022年の発表を「WRX STIの永久終了」と読み替えないことです。
当時否定されたのは、現行WRXを土台として従来と同じような内燃機関の量産STIを展開する計画でした。
先代WRX STIが姿を消したあと、2021年にWRX S4がフルモデルチェンジしたため、「次はSTIが来るはず」と期待していた人はかなり多かったと思います。
僕もクルマ好きとして、その流れなら当然STIを期待したくなる気持ちはよく分かります。
だからこそ2022年の発表はインパクトが大きく、「新型WRX STI開発中止」という言葉だけが独り歩きすることになりました。
ただ、公式発表を丁寧に読むと、話はそこまで単純ではなかったんです。
なぜICE版WRX STIは見送られた?CAFEなど規制が壁と考えられる理由
では、なぜ従来型のWRX STIをそのまま新型へ進化させるのが難しくなったのでしょうか。
SUBARU of Americaの2022年の公式発表では、自動車業界が電動化へ急速に変化し、規制や温室効果ガス、ゼロエミッション車に関する要求が変化していることを踏まえて、次世代STIを検討すると説明されました。
一方、CAFEそのものを「WRX STI見送りの唯一の直接原因」とSUBARUが公式発表したわけではありません。
ここは事実と分析を分ける必要があります。
CAFEとは「Corporate Average Fuel Economy」、日本語では企業別平均燃費などと呼ばれる考え方です。
ざっくり言えば、1台のスポーツカーだけではなく、メーカーが販売する車種全体を見ながら燃費や環境性能を評価していく仕組みです。
そのため第三者による自動車業界分析では、CAFEをはじめとする燃費・排出ガス規制の強化が、高出力ガソリン車を商品化する際の大きなハードルになると指摘されてきました。
WRX STIのようなクルマは、その影響を受けやすい条件がそろっています。
高出力のターボエンジン、常時四輪の駆動力を生かすAWD、太いタイヤ、大型ブレーキ、高い車体剛性など、走りを優先すればするほど車両重量や走行抵抗、熱対策との戦いになります。
ここは強調したいのですが、「もっと馬力を上げる」だけなら話は簡単でも、それをメーカー保証付きの量産市販車として成立させるのはまったく別の仕事です。
出力を上げればエンジン内部だけでなく、冷却水やエンジンオイルの温度管理、ターボ周辺の熱、クラッチやトランスミッション、ドライブシャフト、デフ、ブレーキまで負担が増えます。
しかもメーカーの市販車では、サーキットを数周走れればOKではありません。
真夏の渋滞でも、真冬の始動でも、買い物や通勤でも長期間使えることが求められます。
排出ガス規制にも対応し、騒音規制もクリアし、燃費も考え、衝突安全性能も確保しなければいけません。
速いエンジンを作る技術と、速いクルマを世界で合法的に量産販売する能力は同じではない。
僕は、現在のスポーツカーを考えるうえでここが非常に重要だと思っています。
少量限定車ならすべての規制を無視できる、という意味でもありません。
ただ、商品規模や販売方法を変えることで、通常の量販グレードとは違う企画を成立させる余地はあります。
2026年のWRX STI Sport♯を見ると、その「別の作り方」をSUBARUとSTIが現実の商品として見せた、と考えることができます。
FA24型2.4Lターボでは次期WRX STIを作れないのか?
新型WRX STIを語るとき、もうひとつ欠かせないのがエンジンです。
歴代WRX STIを象徴してきたのは、2.0L水平対向4気筒ターボのEJ20型でした。
EJ20は1989年の初代レガシィから長年にわたってSUBARUの高性能車を支え、国内仕様では初代レガシィRSの220PSから、1990年代には280PSへ到達。
最終期のWRX STIでは308PS、STIコンプリートカーのS208やWRX STI TYPE RA-Rでは329PSまで高められました。
約30年にわたって改良されてきたEJ20は、まさにSUBARUのスポーツエンジンを象徴する存在です。
そのEJ20に代わって現行WRX S4に搭載されたのが、FA24型2.4L直噴ターボです。
日本仕様の現行WRX S4は2021年11月に登場し、最高出力275PSを発生します。
先代WRX S4のFA20型2.0Lターボは最高出力300PSだったため、数字だけを見ると「排気量が増えたのにパワーが減った」と感じる人もいるでしょう。
でも、エンジンは最高出力だけでは性格を判断できません。
FA24は2.4Lの排気量を生かし、低い回転域からトルクを使いやすくする方向に重点を置いたエンジンです。
WRX S4では2,000rpm付近から太いトルクを使えるため、日常走行で毎回高回転まで引っ張らなくても速度を乗せやすいというメリットがあります。
ここは初心者の人にもイメージしてほしいところです。
昔の高回転型スポーツエンジンが「思い切りペダルを踏んで回転数を上げるほど盛り上がるタイプ」だとしたら、FA24はアクセルを踏んだ比較的早い段階からグッと前へ出てくれるタイプです。
6MTとの組み合わせでも、この低中回転域のトルクは大きな強みになります。
たとえば街中で3速から加速したいとき、毎回2速へ落としてエンジンを高回転まで回さなくても、ある程度そのまま押し出してくれる余裕を作りやすいからです。
一方、過去の自動車メディアではWRX S4開発関係者への取材として、現行FA24から大幅に最高出力を引き上げて量産市販車として成立させることの難しさが報じられてきました。
ただし、これはSUBARUが「FA24はこれ以上パワーアップできない」と公式に宣言した話とは分けて考えるべきです。
エンジン単体なら改造による高出力化は可能でも、量産車として耐久性、排出ガス、冷却性能、駆動系の余裕まで保証するとなれば条件が変わります。
ではFA24ではSTIを作れないのか。
2026年、その疑問に対してかなり興味深い答えが出ました。
WRX STI Sport♯とは?275PSと6MTが示した新しいSTI像
2026年4月9日、SUBARUとスバルテクニカインターナショナル(STI)は「WRX STI Sport♯」を正式発表しました。
販売台数は600台限定です。
2026年4月9日から5月17日まで、全国のSUBARU販売店で抽選申し込みを受け付ける方式が採られました。
最大の注目ポイントは、現行世代の日本仕様WRXとして初めて6速マニュアルトランスミッションを採用したことです。
搭載エンジンはFA24型水平対向4気筒2.4L直噴ターボ。
最高出力は202kW(275PS)/5,600rpm、最大トルクは350N・m(35.7kgf・m)/2,000〜5,200rpmです。
駆動方式はもちろん、SUBARUらしいシンメトリカルAWDです。
ここで驚くのが、最高出力が275PSのままという点でしょう。
歴代WRX STIや現在のライバルスポーツモデルを知っている人なら、「STIなのにもっと上げないの?」と思うはずです。
しかし、WRX STI Sport♯を詳しく見ると、今回の狙いが単純な最高出力競争ではないことが分かります。
エンジンでは、ピストンとコンロッドの重量公差を通常より小さく管理。
さらにクランクシャフト、フライホイール、クラッチカバーといった回転部品についてもバランスを厳しく選別した、バランスドエンジンやバランスドクラッチカバー&フライホイールが採用されています。
これは何をしているのか。
分かりやすく言えば、同じ部品でも製造時にはごく小さな重量差があります。
そのばらつきをさらに小さくそろえて組み合わせれば、エンジン内部やクラッチ周辺の回転が整いやすくなり、無駄な振動を抑えながら滑らかなフィーリングを狙えます。
馬力計の数字を増やす改良ではありません。
でも、運転席でアクセルを踏み、クラッチをつなぎ、シフトアップするたびに触れる部分だからこそ、運転の気持ちよさに直結しやすい改良なんです。
足回りには専用チューニングのZF製電子制御ダンパーを採用。
ブレーキにはbrembo製のフロント対向6ポット、リア対向2ポットキャリパーとドリルドディスクローターが組み合わされ、タイヤは245/35R19サイズのブリヂストンPOTENZA S007です。
さらにSTI製フレキシブルドロータワーバーや前後フレキシブルドロースティフナーなども採用されています。
注目したいのは、6ポットブレーキと245/35R19タイヤは「豪華装備」ではなく、クルマ全体のキャラクターをかなり変える部品だということです。
6ポットキャリパーは、単純に「止まる力が6倍」になる装備ではありません。
大きなパッドを安定してローターへ押し付けやすく、強い減速を繰り返したときのコントロール性や熱への余裕を作るための装備と考えるほうが分かりやすいです。
一方、35扁平の19インチタイヤはステアリング操作への反応をシャープにしやすい反面、タイヤのクッション部分が薄くなるため、路面の段差や荒れを感じやすくなります。
交換費用も一般的なタイヤより高くなりやすいでしょう。
つまりSTI Sport♯は、「誰にとっても快適なWRX」というより、ハンドル、ブレーキ、シフトを積極的に操作して楽しむ人へ寄せたクルマだと僕は見ています。
車両サイズは全長4,670mm、全幅1,825mm、全高1,465mm。
車両重量は1,560kgです。
インテリアにはRECARO製フロントシートを含むウルトラスエードのシート、本革巻きシフトノブ、本革巻きハンドブレーキレバーなどを採用。
ボディカラーにはWRブルー・パール、セラミックホワイト、サンライズイエローが設定されました。
僕が一番面白いと思うのは、STIがFA24を無理に300PS後半へ引き上げなかったことです。
最高出力を上げれば、冷却やクラッチ、ギア、デフ、ブレーキまで余裕をさらに確保する必要があり、燃費や排出ガスとの両立も難しくなります。
そこで275PSというすでに量産実績のある基本性能を使いながら、MT、エンジンの回転精度、ブレーキ、ダンパー、車体の動きに手を入れた。
僕にはこれが、「馬力の数字よりも、ドライバーが操作したときの密度でSTIらしさを作る」という一つの方向転換に見えます。
スポーツカーは、最高出力が大きいほど必ず楽しいわけではありません。
街中では300PSでも400PSでもアクセルを全開にできる場面は限られますが、クラッチ、シフト、ステアリング、ブレーキには走るたびに触れます。
そこを磨くほうが、毎日の運転で「このクルマ、いいな」と感じる回数は増える可能性があります。
新型WRX STIは今後復活する?考えられる3つのシナリオ
では、VAB型までのような「WRX STI」は今後復活するのでしょうか。
現時点でSUBARUから次期WRX STIの量産市販計画は発表されていないため、ここからは公表済みの事実を踏まえた筆者の考察です。
考えられる方向は、大きく3つあります。
1.内燃機関+6MTを限定STIモデルとして継続する
2026年時点で最も現実的な選択肢に見えるのが、STI Sport♯のような限定コンプリートカーです。
600台限定という生産規模ではありますが、SUBARUは実際にFA24ターボ、AWD、6MTという組み合わせを商品化しました。
これはかなり重要な前例です。
2022年の発表後には「SUBARUのMTターボAWDスポーツはもう終わるのでは」と感じた人もいたでしょう。
ところが2026年には、まさにその組み合わせがSTIの名前で戻ってきました。
通常カタログモデルとして常時販売するのは難しくても、限定車としてSTIが作り込む方法なら今後も選択肢になる可能性があります。
もちろん、次の限定車が計画されていると確認されたわけではありません。
それでも「現代の規制環境でもICE+6MT+AWDの商品化実績ができた」こと自体は、2022年時点にはなかった材料です。
2.電動化した次世代WRX STIへ進む
もう一つは、SUBARUが2022年から示している電動化の方向です。
その象徴の一つが、東京オートサロン2022で公開されたSTI E-RA Conceptでした。
これは「次期WRX STIそのもの」ではありません。
ただ、STIが電動時代でも高性能車開発を続けようとしていることを示すコンセプトとして重要な存在です。
電動モーターとAWDは、実はスポーツ走行と相性の良い要素を持っています。
モーターは低回転から大きなトルクを出しやすく、複数のモーターを使えば前後左右の駆動力を細かく制御する技術にも発展させられます。
その一方、歴代WRX STIの魅力だったエンジン音や回転上昇、クラッチを踏んで自分でギアを選ぶ感覚をそのまま電動車へ移すことはできません。
もし将来、電動WRX STIが登場するなら、「速いEVを作りました」だけではSTIファンには十分ではないでしょう。
電動化しても自分で操っている感覚をどう残すのか。
僕はそこがSTIにとって最大のテーマになると思っています。
3.ICE限定車と次世代電動STIを並行してつなぐ
僕が個人的に最も興味深いと感じるのは、完全な二者択一にしない形です。
2022年当時は、「ICEのWRX STIをやめて、そのうち電動STIになる」という一本線の未来にも見えました。
しかし2026年にWRX STI Sport♯が登場したことで、見え方が変わりました。
将来の電動高性能車を研究しながら、その技術がSTIファンを満足させられる段階へ育つまで、既存のFA24や6MTといった技術資産を限定モデルで生かす。
この方法ならSTIブランドを長期間空白にせず、内燃機関時代から次世代へ橋渡しできます。
これはあくまで僕の考察ですが、WRX STI Sport♯は「昔のSTIの復刻」よりも、「次のSTIまでブランドをどうつなぐか」という意味を持つクルマなのではないかと感じています。
「275PSのまま」がむしろ重要だと考える理由
今回の記事で、僕がほかの情報以上に伝えたいのがここです。
WRX STI Sport♯が275PSのまま登場したことを、単純に「昔より遅くなった」と評価するのは少しもったいないと思います。
歴代WRX STIは308PS、限定モデルでは329PSまで進化しました。
現在も世界を見れば300PSを大きく超える4気筒スポーツモデルがあります。
その数字だけ並べれば、275PSは目立ちません。
でも、公道を走るクルマの楽しさは最高出力の1項目だけでは決まりません。
実際の運転では、停止状態からクラッチをつなぎ、シフトアップし、交差点で減速し、カーブへ進入し、またアクセルを開けるという操作を繰り返します。
そのたびに効いてくるのが、低中速のトルク、エンジンの回り方、クラッチのつながり、シフトの感触、ブレーキの反応、ダンパーの動きです。
FA24は最大トルク350N・mを2,000〜5,200rpmという広い範囲で発生します。
この性格は、最高回転まで引っ張らなくてもトルクを使えるため、MT車を日常的に走らせるうえではかなり扱いやすい方向です。
高速道路で少し速度を上げたい場面でも、適切なギアに入っていれば大きく回転数を上げなくても加速しやすい。
山道でも、毎回レッドゾーン近くまで回さずトルクを使ってリズムよく走る楽しみ方ができます。
整備や耐久性という観点でも、最高出力をむやみに追わない意味はあります。
出力を高めれば燃焼温度やターボ周辺の熱負荷が大きくなりやすく、エンジンオイルや冷却水、吸気温度などの管理はより厳しくなります。
クラッチやギア、ドライブシャフトなどへ伝わる負荷も増えます。
もちろんSUBARUが275PSを選んだ理由を僕が断定することはできません。
ただ、量産実績のある出力を基本に、回転部品の精度や足回り、ブレーキへコストと手間を使う方法には、長く安心して乗れる市販スポーツカーを作るという点で合理性があると僕は考えます。
しかも245/35R19タイヤや6ポットbremboを採用している以上、維持費まで普通のWRXと同じとは考えないほうがいいでしょう。
大径・低扁平タイヤは交換費用が高くなりやすく、強力なブレーキもパッドやローターの消耗品価格まで含めて購入前に考えておく必要があります。
速さだけでなく、「買ったあとに維持できるか」まで考えて選ぶのが本当に楽しいスポーツカー生活につながる。
そこもぜひ覚えておいてほしいポイントです。
まとめ:新型WRX STIは永久消滅ではなく「形を変えて模索中」
新型WRX STIが「開発中止」「もう出ない」と言われる大きなきっかけは、2022年3月11日のSUBARU of Americaによる発表でした。
ただし正確には、現行WRXプラットフォームをベースとした内燃機関版の次世代WRX STIを生産しないと示されたもので、STIブランドや将来のWRX STIを永久に終了するという内容ではありません。
公式発表では、自動車業界の電動化や規制環境の急激な変化を踏まえて次世代STIを検討すると説明されました。
CAFEなどの燃費規制については、SUBARUが「これが唯一の原因」と公式発表したものではありませんが、高出力ターボ+AWD車の商品化を難しくする業界環境の一つとして考えることはできます。
そして2026年、状況を変えたのがWRX STI Sport♯です。
600台限定ながら、FA24型2.4Lターボ、シンメトリカルAWD、6速MT、バランスドエンジン、ZF製電子制御ダンパー、brembo製ブレーキなどを組み合わせ、STIらしいWRXを実際に商品化しました。
僕は、ここに現在のSTIの考え方がかなり表れていると感じます。
最高出力を競うだけではなく、エンジン、MT、足回り、ブレーキをまとめ上げ、「自分で操作する楽しさ」を濃くする。
これなら、従来型WRX STIがそのまま戻らなくても、STIらしさを別の形で残すことはできます。
2026年現在、次期WRX STIの量産復活もEV化も正式決定していません。
だから「復活確定」とも「永久消滅」とも断定するべきではありません。
今言える最も正確な表現は、従来型の量産ICE WRX STIはいったん途切れた一方で、STIは内燃機関の限定車と次世代電動技術の両方を使いながら、新しい高性能車の形を模索しているということです。
EJ20時代をそのまま再現するのではなく、これからの規制や技術の中で「乗ればSTIだと分かるクルマ」をどう作るのか。
WRX STI Sport♯は、その答えを探す途中で登場した非常に重要な一台だと僕は考えています。
よくある質問
新型WRX STIは本当に開発中止になったのですか?
2022年に見送られたのは、現行WRXのプラットフォームをベースとした内燃機関搭載の次世代WRX STIです。
WRX STIブランドそのものを永久終了すると発表されたわけではなく、2026年には6MT搭載のWRX STI Sport♯が600台限定で登場しています。
WRX STI Sport♯はVAB型WRX STIの正式な後継車ですか?
WRX STI Sport♯は、現行WRXをベースにSTIが仕立てた限定コンプリートカーです。
FA24型2.4Lターボ、6MT、AWDという構成を持ちますが、VAB型までのWRX STIと同じ位置づけの通常量産モデルが正式に復活した、と捉えるのは適切ではありません。
次期WRX STIはEVになるのでしょうか?
2026年現在、次期WRX STIの市販仕様がEVになると正式決定した事実は確認されていません。
2022年には電動化を含む次世代STIの可能性が示された一方、2026年にはICE+6MTのWRX STI Sport♯も登場しています。今後は内燃機関の限定モデルと次世代電動技術の両方を見ていく必要があります。
執筆:輪島駆(わじまかける)

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